国民は、自ら憲法を犯す司法を裁け

                 先ずは、身近な実例から
         東京大空襲訴訟の「訴状」 に対する 被告国の「答弁書

 (注) 法務省訟務局の被告国の代理人は、司法権または裁判権ないはずだけれども、
 
答弁書に書かれている内容は、全て日本国憲法から外れている。         .
 
そして、司法権がある裁判所に対して指示をしているような感がある。    .
 
なぜなのか、検討してみる必要がある。               

 平成19(1907)年3月、空襲遺族と被害者の原告112名が、国に謝罪と補償を求めて「.訴状」を東京地方裁判所に提出しました。
 その『東京大空襲 訴状』
で、原告は、「戦後68年を経た今も、国が空襲被害を公的調査していないという行政不作為と空襲被害者を救済する法律をつくっていないという立法不作為の現状は、憲法前文、第13条、14条、17条、29条3項等の条文に違反している。軍人軍属には累計60兆円の補償をしているのに、同じ国家の戦争に因る民間戦争被害者には国家補償としての制度が施されていない。一般の障害者福祉と同じ扱いになっている。
 これは憲法13条、14条及び17条(国賠法の根拠)等に違反すると指摘し、補償と謝罪を求めました。

 これに対する被告国側が提出した「答弁書」を検討することで、戦争被害について法務省訟務局の不合理な考え方を明瞭にしておきます。
 なお、原告側の訴状は歴史的先行行為を含む、180頁に及ぶ大枚なので、ここでは被告国側の「答弁書」で簡潔に纏めた「争点」や、「はじめに」、「原告らの主張」を、原告の訴状の「主張」としたことを了解願います。
 
平成19年(ワ)第6961号 損害賠償等請求事件
原 告  星野 弘 ほか111名
被 告  国
          
 答 弁 書
                     平成19年5月24日
東京地方裁判所民事第44部B係 御中
                被告指定代理人  住川洋英
(代)
                    
                      ほか 15名省略
第1 請求の趣旨に対する答弁
 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告らの負担とする。
 3   省 略

第2 はじめに
     省 略

第3 外交保護義務違反の原告らの主張が誤りであること
     省 略

第4 被害者を救済せず放置した立法不作為及び行政不作為の違法を主張する原告らの主張が誤りであること

 はじめに
 原告らは、訴状第3章「被告の責任(その2)」において、原告を含む被害者を何ら救済せず放置した責任があるとしてるる主張するが、その主張は、立法不作為の違法の主張と行政の不作為の違法の主張に分けることができる。そこで、以下、これら違法の主張がいずれも理由のないものであることを明らかにする。

2立法不作為の違法をいう原告らの主張が誤りであること 
(1) 原告らの主張
 原告らは、憲法前文、9条、13条、14条、17条、29条1項、同条3項、40条、98条2項から、立法府である国会は、原告らに対する賠償ないし補償立法を行うべき立法義務が存在し、国会議員がかかる立法の必要性を認識していたにもかかわらず、合理的期間を経過しても、立法をなさなかった不作為が違法である旨主張する。


(2) 原告らの主張はが失当であること
 しかし、原告らの上記主張は、以下に述べるとおり、最高裁判所平成17年9月14日大法廷判決(
在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件)を正解しない主張であり、かつ、立法不作為についての国賠法の適用に関する誤った理解に基づく独自の主張であり、失当である。
 最高裁平成17年大法廷判決は、国外に居住している国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民の国政選挙における選挙権の全部又は一部を認めないことの適否等が争われた事案において、以下のとおり判示した。

 「国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したがって、国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって、当該立法の内容又は立法不作為違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容又は立法不作為規定に違反するものであるとしても、それゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。しかしながら、立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上補償されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は不作為は、国家賠償違法1条1項の規定の適用上、違法の評価をうけるものというべきである最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決(宅投票制度廃止事件)は、以上と異なる趣旨をいうものではない。」
 
なお、平成17年最高裁大法廷判決にいう最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判決は、
 「国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである。したがって、国会議員の立法行為(立法不作為も含む。以下同じ。)が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題である(る)」、「国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うことにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務」を負うものではないというべきであって、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会が敢えて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。」と判示したものである。

(3)本件について
 
以上のように、平成17年最高裁大法廷判決在外日本人選挙権訴訟によれば、立法不作為が違法となる場合は、その立法不作為が国民に憲法上保証されている権利を違法に侵害することが明白な場合や、国民に憲法上保証されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが」必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などの例外的な場合をいう。ところが、前記第2でも述べたとおり、原告らの主張する損害は、戦争被害ないし戦争損害として、国民ひとしく受忍しなければならなかったところであり、「これに対する補償は憲法の予想しないところ」なのであるから(最高裁昭和62年6月26日第二小法廷判決(名古屋空襲被害者損害訴訟))、これに対し救済措置を講ずべきことが必要不可欠であり、それが明白であるなどとは到底いえない。そうすると、救済立法をしなかった国会議員の行為につき国賠法1条1項の違法を問われる余地はない。
 
したがって、原告らの立法不作為を理由とする国家賠償請求に理由がないことは明らかである。

3
行政不作為の違法をいう原告らの主張が誤りであること
 に続く


▶ 目次の 第4-2 を検討します

立法不作為の違法をいう原告らの主張が誤りであること

2-(1)

 訟務局答弁書は、原告らの主張を簡潔に纏めています。
 
憲法前文、9条、13条、14条、17条、29条1項、同条3項、40条、98条2項から、国会は、原告らに対する賠償ないし補償立法を行うべき立法義務が存在し、国会議員がかかる立法の必要性を認識していたにもかかわらず、合理的期間を経過しても、立法をなさなかった不作為が違法である。

 全くそのとおり。特に13条で、

第13条 すべての国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

と書かれている。
 国家の戦争に因り被害を受けた者は、公共の福祉のために、立法や国政は最大の尊重を必要としている。にもかかわらず、戦後60余年を経ても援護立法対策を施さないのは、憲法該当条項に対する違反であり、17条が定める国家賠償に該当する。

2-(2)
 ここで、答弁書は、
 
「・・・しかしながら、立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上補償されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は不作為は、国家賠償違法1条1項の規定の適用上、違法の評価をうけるものというべきである。・・・」 
 と述べているが、ここに判例として挙げている、「在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件」と「
宅投票制度廃止事件」は、東京大空襲訴訟の人権無視の重大さが頭に入っていない、ほとんど意味のない判例をあげて反論している。
 ここに、本当に国会が正当な理由なく長期にわたって怠った実例を挙げる。
 池谷好治著『路傍の空襲被災者-
戦後補償の空白(クリエイティぶ21発行)の56頁から62頁にかけて、改正憲法第14条に違反している「国家との身分関係」を書いている。その中で参議院社会労働委員会における戦時災害援護法案の審議の記述中に、「図表23 戦時災害援護法案の議事経過」(57頁)によれば、1973年の第71回国会から1988年の第114回国会までに、14回も「援護法案」が提出されていたのである。しかし、毎回、審議未了が繰り返されている。法案を提出した所属会派は、当初は日本社会党であったが、第80回国会以後は複数の会派、社会党、公明党、国民会議、共産党、民社党、二院クラブ、革新共闘、国民連合、護憲共闘、国民会議などが参加していた。また、第114回国会以後も、戦争被害補償の請願が行われていた。
 これは、国民に憲法上補償されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であるため、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠った立法不作為の事実である。このことは、戦後処理関係の訴訟に関わった人たちは、よく知っていることだ。

 (2)の最後で、
「国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会が敢えて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。
 と、国会が憲法の趣旨に違反した法律をつくってしまった場合を例外的と書いている。が、問題の焦点をずらしているようだ。本件は、国会が、一義的条文が無くても、国民の一部被害者たちの福祉のために必要と視るならば、憲法第13条の後半の趣旨を積極的に解釈し、新しい法律をつくらなくてはいけなかった。しかし、長期にわたってそれをしてこなかった国と国会は、憲法17条を通して、国家賠償法の適用を受け入れなければならない。
 

憲法第十三条 すべての国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他国政の上で、最大の尊重を必要とする。 
憲法第十七条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
国家賠償法
第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。


2-(3)
 ここでまた半世紀前の判例「在外資産の喪失補償請求訴訟」昭和40年(オ)第417号 同43年11月27日大法廷判決を引用している。
 
「国の戦争で被害を受けた国民はみな我慢しなければならない。なぜなら、戦争被害に対する補償については、日本国憲法に書かれていない。」からであるらしい。たとえ第9条が無かったとしても、「戦争被害はそれを補償する」などという憲法条文は考えられない。戦争に勝っても負けても、現憲法に一意的、直接的条文がなくても、被害を受けた国民が求めるならば、第13条などの主旨を踏まえ、戦争被害者を救済する法律をつくるのが国会である。政府と国会は過去に無数の法律をつくったり改定してきたではないか。

 この後半で、名古屋空襲被害者損害訴訟判例を持ち出し、
 
「原告らの主張する損害は、戦争被害ないし戦争損害として、国民ひとしく受忍しなければならなかったところであり、これに対する補償は憲法の予想しないところなのである・・・。・・・救済立法をしなかった国会議員の行為につき国賠法1条1項の違法を問われる余地はない。」
と書いて、日本国憲法第三章の各条項と第17条の存在を忌避する。
 

総務省訟務局職員とはいかなる人達なのか、全く理解不能な「答弁書」である。

 国家の行政とは、大変大きなものであろう。しかし、この異常な状況を放置することは、日本国としてよくない。


 
次は

. 行政不作為の違法をいう原告らの主張が誤りであること 

司法を裁け-(2)につづく
国民は、自ら憲法を犯す司法を裁け